2019年4月28日日曜日

テスト駆動英語学習(TDEL)-テストの反復で何を強化するか? どうやって問題集を作るか?

 前回記事では、私が提唱するテスト駆動英語学習(TDEL)の問題集の外観を示し、具体的な作り方に入る前の序章として分散学習アプリ Ankiの威力を紹介しました。今回はいよいよ問題集に踏み込みます。まずテストの反復で何を強化するか?を、続いてどうやって問題集を作るか?を紹介します。

テストの反復で何を強化するか?
(1)連想マシン
 私はプライベートでの会話中にジョークを挟む方ですが、よくよく考えてみると恐ろしいほど高度な知的処理をしているなと思います。相手の話を聞きながら、話題から少し外れているけど関連している言葉やイメージを頭の脇に読み出し、保持しておき、相手の話が途切れたタイミングで頭の脇に保持した言葉やイメージを元にリアルタイムでジョークを構成し、言葉としてアウトプットする。この知的処理の基盤が、ここで取り上げる連想マシンです。
 人間の思考の重要なメカニズムとして、行動経済学の権威 ダニエルカーネマン氏は著書「ファスト&スロー」で、この連想マシンをあげています。人の頭の中では、言葉、意味、経験、感情、イメージ等が、ノード(節点)としてネットワーク状に連結されており、ある情報が入力されると、無意識のうちに、連結強度の高い複数のノードが同時に活性化(連想活性化)するというものです。その逆もあり、複数の情報が同時に連想マシンに入力されると、対応する複数のノードが同時に活性化され、それらの間の連結強度を高めます。
 下の図は、私の連想マシンの動作例です。例えば、"Apple"、"クリエイター"を私の頭に入力すると、Steve Jobs、The Beatles、椎名林檎が連結活性化され、そしてSteve Jobsと連結強度の高いMachintosh(※1)、Next Step(※2)、iPod・iTunes、The Beatlesと連結強度の高いRickenbacker(※3)、Let it be、Abbey Road、椎名林檎と連結強度の高い歌舞伎町の女王、ここでキスして、リオの閉会式が連想活性化されます。同時に図示できない、感情やイメージも連想活性化されます。


図1:私の連想マシンの動作例-"Apple"、"人"入力時の連想活性化(2ホップまで)
  ※1 Machintosh: Apple初期のPC. Macになる前の機種. 外見がカワイイ.
  ※2 Next Step: Steve JobsがAppleを離れていた時期に開発したコンピューター.           このコンピューターのOSが現在のMacOSのベースになった.
  ※3 Rikenbacker: ビートルズが愛用していたギター 

(2)コロケーションの習得(=連想ネットワークの強化 ≠ 暗記)
 3月23日記事でTDELの基本戦略の一つとして「コロケーションの習得」をあげましたが、これを連想マシン視点で言い換えると以下のようになります。
  • コロケーションの習得(連想マシン視点):テストでは、一緒に使われる語と語の組み合わせ(コロケーション)を何度も同時に脳内で活性化させることによって、その連結強度を高める。この繰り返しによって、ある語を思い浮かべたときに、連結強度の高いコロケーションが無意識下で連想活性化するようになり、思ったことをリアルタイムで作文するための基盤が脳内で強化される。
 分散学習(Spaced Repetition)をベースにしたコロケーションを含むテストの反復によって、語と語が頭の中で関連付けられ、支えあい、強め合う。このように、TDELでのテストの反復は、コロケーションを中心としたの連想ネットワークを強化します。単なる単語の暗記ではなく、必要な時にすぐに記憶から取り出せるアクティブボキャブラリの増強をめざします。

どうやって問題集を作るか?
(1)問題集管理テーブル
 4月7日記事で紹介したテスト駆動英語学習(TDEL)の概要でも図示しましたが、私は情報ソースから抽出した問題文を一度、問題集の管理テーブルに登録しています。やはり一覧性の高いテーブルイメージで問題集を俯瞰したいですし、分散学習アプリ Ankiに登録する必要は無いが問題集の管理には必要な情報があるからです。
 下の図が私の問題集管理テーブル(抜粋)です。実際はもう少しフィールド(列)がありますが、図では最低限必要と思うものを表示しています。また、このテーブルにはGoogle Spreadsheetを使用していますが、Excelでも問題有りません(当たり前ですが)。

図2:問題集管理テーブル(抜粋)-Google Spreadsheet

以下、問題集管理テーブルの各フィールド(列)の説明を列挙します。

  • B列「ID」:問題の識別番号のフィールド。主にAnkiに登録済みのカード(=問題)を検索するときに使う。意外と重要。
  • C列「問題文(日本語)」・D列「問題文(英語)」:問題文を登録するフィールド。この抜粋例では、穴埋め問題には英文の隠す部分と和文の対応部分にアンダーラインあり、文ごと隠す問題にはアンダーラインなし。
  • E列「語数」:問題文(英語)の語数のフィールド。
  • F列「ノート」:主にテストの振り返り結果を記入するフィールド。
  • G列「形式(B/S)」:出題形式のフィールド。B(Blank):穴埋め問題、S(Sentence):文ごと隠す問題。
  • H列「カテゴリ(タグ)」:問題の分類のフィールド。問題の情報ソース別に分けて記入している。分散学習アプリ Ankiには「タグ」として登録。
  • I列「Anki登録」:問題文のAnkiへの登録状況のフィールド。図に表示した問題は、全て登録済み。
  • J列「単語・フレーズ(Pick up)」:主要な単語・フレーズのフィールド。最低限これは覚えたいというものを記入する。
  • K列「品詞」:主要な単語・フレーズの品詞のフィールド。

(2)出題形式
 出題形式は、上記(1)G列の通り、穴埋め問題(形式B:Blank)、文ごと隠す問題(形式S:Sentence)の2種類です。形式Bの方が簡単です。図2の問題集(抜粋)では、文の長さが10語以下であればS形式、11語以上であればB形式にしていますが、どちらの形式にするかは、それぞれ方の学習進度によって変わります。
 英語力に自信のない人は、B形式を選択、隠す語数を2~5語程度にし、まずはボキャブラリと主要なコロケーションの強化を目指すことをおすすめします。

(3)問題の作成
 図2は、私の問題集をそのまま表示しているので、出題形式S(文ごと隠す)が多く、出題形式B(穴埋め問題)だとしても、6~11語を隠しています。
 これよりも難易度を下げて、① 問題は全て形式B、「単語・フレーズ(Pick up)」フィールドの語を中心に隠す、隠す語数は5語以下、とした出題例を以下に示します。(英文のアンダーライン部分を隠します。)

0214 これが私のレポートです. よろしければ, その詳細を説明します.
   Here’s my report. I’ll take you through it if you like.
0215 彼は自分の無罪に納得させようと努めた.
   He tried to convince me of his innocence.
0216 それについては, よく考えさせてください.
   Let me think on it.
0217 彼は, 無視されたことに腹を立てた.
   He resented being neglected.
0218 ビザの申請は手紙でできますが, あなたが直接大使館に行けば、より早いです.
   You can apply for a visa by mail, but it's quicker if you go to the embassy in person.
0219 彼はたばごを吸ったため, 学校を退学になった.
   He was expelled from school for smoking.
0220 彼女は, 気品がある.
   She has grace.
0221 ジョーは, 資金を盗んだため委員会を追放された.
Joe was kicked off the committee for stealing funds.
0222 私はそれはやってみる価値はあると考えた(thought以外)
   I figured it was worth a try.
0223 校長は, 理事会の決定に対して拒否権を持っている.
The head teacher has the right of veto over management-board decisions.

上記の出題例で隠したコロケーションをまとめると、以下の通りになります。
 動詞, 前置詞   :0214, 0215, 216, 0219, 0221
 動詞, 動名詞   :0217
 動詞, 名詞      :0220
 名詞, 前置詞   :0218
 名詞, 冠詞, 前置詞 :0223
 動詞, その他     :0222

上記のように、コロケーションを考慮することによって、連想ネットワークの強化を実現する問題を作成します。

(4)Ankiへの問題の登録
(4A) 出題形式B(穴埋め問題)のカード登録
 Ankiのメインウィンドウ(図示なし)から「追加」ウィンドウ(図3)を立ち上げ、以下の4つを実施します。

① Frontフィールド(問題用):問題集管理テーブルからID、問題文(日本語)、問題文(英語)をコピーし、本フィールドにペーストする。このとき書式は引き継がれないので、ペーストした文に改行を入れ、アンダーラインを引く。問題文(英語)の隠す部分にはスペースを入れ、そのスペースにアンダーラインを引く。
② Backフィールド(解答用):問題集管理テーブルから問題文(英語)をコピーし、本フィールドにペーストする。①と同様に書式は引き継がれないので、ペーストした文にアンダーラインを引く。
③ タグフィールド:問題集管理テーブルのカテゴリ(タグ)欄の名称を本フィールドに入力する。
④ 追加ボタン:最後に本ボタンを押して、カード(=問題)の登録が終了。

図3:出題形式B (穴埋め問題)のカード登録 (Anki)

(4B) 出題形式S(文ごと隠す問題)のカード登録
 上記(4A)と同様に「追加」ウィンドウ(図4)を立ち上げ、以下の3つを実施します。((4A)よりも入力がシンプル)

① Frontフィールド(問題用):問題集管理テーブルからID、問題文(日本語)をコピーし、本フィールドにペーストする。このとき書式は引き継がれないので、ペーストした文に改行を入れる。
② Backフィールド(解答用):問題集管理テーブルから問題文(英語)をコピーする。
③ タグフィールド:問題集管理テーブルのカテゴリ(タグ)欄の名称を本フィールドに入力する。
④ 追加ボタン:最後に本ボタンを押して、カード(=問題)の登録が終了。

図4:出題形式S (文ごと隠す問題)のカード登録 (Anki)

まとめ
以上、テストの反復で何を強化するか?では、人間の連想ネットワークのメカニズムを紹介し、テストの反復によって連想ネットワークの強化を目指すことを示しました。そして、どうやって問題集を作るか?では、問題集管理テーブルのフォーマット、コロケーション(=連想記憶の強化)を意識した問題の作成例を示し、最後に少し地味ですがAnkiへのカード(=問題)の登録方法を紹介しました。
 次は、いよいよTDELの一番重要な部分である、テストの実施と振り返りに入っていきます。

それではまた、令和で! by a2c

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