2019年5月5日日曜日

テスト駆動英語学習(TDEL)-テストと振り返り前編:忘れかけた自分が新たな問いを立てる

 令和が幕を開けました。少しワクワクしています。日本国としても、私個人としても、何かが変わっていく、または何かを変えていく期待感が自分の中にあるのだと思います。初回記事で述べた「私も含めて、日本の人々が草の根レベルで世界の人々と触発されながら、学び、遊び、そして働くことができたらな、また、それを実現するために少しでも役に立てたらな」という思いを胸に、まずはこのブログで、私が提唱するテスト駆動英語学習(TDEL)や、そのほか言語の学びに関する情報発信をしていきたいと思います。
 前々回の記事前回記事の2回に渡ってTDELの問題集の外観、作り方を紹介しました。そして、いよいよTDELの中心部分であるテストと振り返りに入ります。今回はテストと振り返りの概要、次回は具体的に、という形で2回に分けて紹介します。

1.本題に入る前に
(1)脳科学が明かす言語習得のメカニズム
     (Diamond Harvard Business Review, October 2012 より)

 東京大学の脳生理学者 酒井 邦嘉(さかい くによし)教授にインタビューした記事ですが、大変参考になった(特に言語中枢の分類は本稿の図に入れさせていただいた)ので、以下の通り、二つの考え方を要約します。

  • 外国語の習得プロセス:母語(L1)も外国語(L2)も、使われている脳の場所はまったく同じ(脳内には、文法・単語・音韻・読解の4つの言語中枢がある)。L2を習得するプロセスは、L1の規則を修正しながら、無数の規則を少しずつ入れていく作業。時にはL1の規則の一部を捨て去る柔軟な対応が必要になる。L2習得における困難の多くはL1の規則に引きずられることによるものだが、実はL1の基盤が豊かな方がL2の習得において柔軟な対応が可能になる。
  • 言語生得説:人は生まれたときから言語知識の体系を持っているという説(酒井氏はこの説の裏付けを試みている)。赤ちゃんが限られた刺激と未発達の推論能力だけで数年のうちにほぼ完全にL1を習得できる事実を、後天説だけでは説明できない。人の思考は脳にもともと備わっている普遍文法をベースに獲得されたL1に導かれる。L2はL1をベースに習得される。

 上の考え方は、日本語には自信があるけど英語は発展途上の人(私も含む)に朗報です。もう既にあなたには(もちろん私にも)、英語を話すための言語的な基盤が備わっています! あとは、L2(=英語)の規則を受け入れ、L1(=日本語)の規則に加えていくだけです。今後はこのような言語習得理論も学び、私の学習手法の規則にも修正を加えていきたいと思います。

(2)テストと振り返りのおさらい(これまでの記事で述べたこと)
 今回の主題は「テストと振り返り」ですが、これまでの記事で述べたこと(短縮版)は以下の通りです。

  • 英語学習の基本戦略(3/23記事)
    テストファースト:
    定期的にテストするのではなく、テスト自体が学習ととらえる。不正解は振り返りの機会となる。
    日本語でインプット、意味をリテイン、英語でアウトプット: テストでは、インプット(日本語)の意味を頭の中でリテインし、一気に英語で話す(アウトプット)。
    コロケーションの習得:テストの問題は、一緒に使われる語と語の組み合わせ(コロケーション)をセットで習得できるよう作成する。
    分散学習アプリの活用:テストには分散学習アプリAnkiを活用し、記憶の忘却特性に基づいて問題ごとに復習間隔を調整する。
  • 不正解は、振り返りの機会 (3/31記事)テストの答え合わせでは、名詞の前の"a/an"と"the"の違いなどの細部にこだわり、自分の解答を厳しくチェックすることが、テストファーストの効果を上げる。
  • 連想ネットワークの強化 ≠ 暗記 (4/28記事)
    コロケーションを含むテストの反復によって、脳内の連想ネットワークを強化し、クティブボキャブラリの増強をめざす。
以上おさらいでしたが、言語習得のメカニズム(上記(1))の視点で、「テストと振り返り」を捉えなおすと、まさに「脳内の言語の規則を修正するプロセス」である、と言えます。

2.TDELにおけるテストと振り返り
(1)全体の流れ
 上記でもおさらいしましたが、TDELの4つの基本戦略は全てテストと振り返りにかかわるものです。よって、このプロセスがTDELの心臓部といえます。
 以下の図は、4/21記事で取り上げた最短の問題文 「静かにしなさい」/"Be quiet."を例に、TDELのテストと振り返りの全体の流れを表しています。実をいうと私は問題文「静かにしなさい」に対して"Be quet"以外を解答したことはありませんが、ここでは、説明のためにあえて誤答(正答と不一致)のケースにしています。


図1:テスト駆動英語学習(TDEL)のテストと振り返りの流れ("Be quiet"の例)

このプロセスは、図からもわかる通りテスト、振り返りの2フェーズから成り、テストフェーズは3ステップ(➀~③)、振り返りフェーズは2ステップ(④~➄)から成ります。
 以下では、各ステップを説明します。

テストフェーズ:
① 日本語の問題文の読解と英語での解答:
 Ankiカードの問題文「静かにしなさい。」を読み、解答"Keep quiet."を発話する。脳内では読解中枢が問題文の意味を解釈し、単語中枢文法中枢が英文を構成し、音韻中枢が発話のための発音・アクセントを加える。
② 解答の正誤チェック:
 解答"Keep quiet."がAnkiカードの正答"Be quiet."と一致しているかチェックする。このケースでは、不一致のため、誤答となる。
③ チェック結果の認識と誤答の記録:解答が誤答であることを認識する。この認識の結果は、即時に脳内にフィードバックされる。ただし、<実は正答では?>という問いが生じる。問いが生じた誤答"Keep quiet."をメモし(図示なし)、次の振り返りフェーズに引き継ぐ

振り返りフェーズ:
④ 誤答の調査(新たな正答、補足ルールの抽出):
 テストフェーズでメモした誤答"Keep quiet."「静かにしなさい」を意味するかをインターネット上の辞書(オンライン)ブログ記事を検索して調べる(教科書等のオフライン情報でも全く問題ないが、調査効率を考えると、検索可能なオンライン情報が断然便利)。図の調査例では、"Keep quiet."<やはり正答だった!>ことがわかったほか、<ほかの言い方> "Keep it down."<丁寧な言い方> "Could you ... ?"がわかった。
⑤ 調査結果のフィードバック:
 上記の調査により確認できた新たな正答と補足情報を問題集に登録し、その内容をAnkiカードに反映する。このステップにより、正答のバリエーションが増え、上記1.(1)でいうところの言語の規則のカバー範囲が広がります。
 以上「テストと振り返り」の全体の流れを説明しましたが、次に私が考えるこのプロセスの最大の特徴を説明します。

(2)最大の特徴「忘れかけた自分が新たな問いを立てる」
 このプロセスの目的は、(1)のステップ➄で行う各問題の正答のバリエーションを増やし、問題集がカバーする言語規則の範囲を広げることです。
 ただ、最大の特徴は、ステップ③で説明した<(誤答は)実は正答では?>という問いが生じるところです。一言でいうと「忘れかけた自分が新たな問いを立てる」といったところでしょうか。
 自分の記憶の制約が新たな学びの契機になる。1000問単位のオーダーがある英語の問題文すべての単語と順序を丸暗記することは普通の人間にには(少なくとも私には)不可能です。テスト直後、問題文は丸暗記に近い形で単語の順序も含めて記憶されていますが、ある期間が過ぎると、その情報は消失し、図1①の脳内の単語(の意味)文法(の規則)だけが残ると考えられます(もちろん、読解・音韻の情報も記憶される)。分散学習アプリAnkiは記憶の忘却特性に基づいて各問題の復習間隔を調整するので、次の出題時には、前回のテスト直後にあった丸暗記に近い記憶はすでに消失しています。脳内では、Ankiカードの問題文を解釈し、英語の単語(の意味)文法(の規則)を手掛かりに英文を再構成するので、一定の割合で正答と異なる解答をします。その割合は、問題集の難易度、正答のバリエーション、学習進度により異なります。私の場合は、これまでの2月弱で5000回以上の問題に解答しましたが、そのうちの約15%(約750回)が正答と異なり、そのうちの約20%(約150回)があとで調べると文法的に正しい解答(=新しい正答)でした。
 今後、このペースが続くかはわかりませんが、自分の記憶の制約が契機となり、2か月間で約150の新しい言語の規則が自分の学習システムに追加されたわけですから、少し面白みを感じています。感覚としては、記憶の状態が異なる様々な自分が居て、各人がいろいろなきっかけを作り、自分向けの教材を作っているというものです。面白くありませんか?


以上、TDELのテストと振り返りの全体の流れ、特徴について述べましたが、次回の「テストと振り返り後編」では、テストと振り返りの具体的な内容について紹介したいと思います。
それでは、また! by a2c

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